「仙禽」という酒

栃木・下野(しもつけ)の国にはいい酒が多い。これは日本酒を本格的に学ぼうと思ってから知ったことである。
周りに栃木銘酒押しが多くいることもあり、自然と意識して呑むようにしている。

「稲毛屋」でも強力にプッシュしている「松の寿」や「澤姫」、「辻善兵衛」、「若駒」など。
特に「仙禽」は昨年特に意識して呑んでみた銘柄である。自宅を「仙禽庵」と称している熱狂的ファンがいたり、「焼鳥×和酒 遊」のような蔵元と同級生ゆえにPB「Amuser(アミューゼ)」など提供している店があったり。

日本酒の“酸”を意識している蔵であり、その綺麗で透明感ある酸味が印象的である。
加えてドメーヌ&テロワールといったワインの文化も取り入れながら、
生酛、蔵付き酵母、木桶など古典的な製法にもこだわったりしている。

リリースするラインナップも面白い。
「雪だるま」「かぶとむし」といった季節を意識したシリーズ。
定番ラインナップの「モダン」と「クラシック」。
ワイン酵母を使用した「ドルチェ」シリーズ。
そして超自然派な造りにこだわった「ナチュール」シリーズ。
「鶴亀」(今年から「麗」)や「一聲」といったプレミアムシリーズもあったりする。
そんな個性的な「仙禽」という酒を昨年は一通り追ってみた。

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時系列通りにまずは活性にごり酒「雪だるま」。
可愛いラベルと雪に見立てた“おり”がよくわかる透明ボトル。
味わいもガスによる爽快感と“おり”によるシルキーな甘さのハーモニーが特徴。
毎年楽しみにしているファンも多い。

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もろみを搾る工程の序盤(あらばしり)、中盤(中取り)、終盤(せめ)でそれぞれ商品化したマニアックなものもある。一般的に「中取り」が一番美味しく贅沢な部分とされているが、呑み比べるとその印象も変わる。
生酒ゆえ開封してからの変化も楽しみながら冷やしたままで呑んだり温めてみたり、3種を同時に比較しながら楽しむ。
個人的には雑味も味わいの一部であることを教えられる「せめ」に毎年注目している。

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ふりがながないとまず読めないラベル文字が特徴な「モダン 仙禽」。
原料米は地元で作られた「ドメーヌさくら亀の尾」。
「仙禽」という酒を一番理解しやすい商品ではないかと考える。
比較的入手しやすいシリーズであるのも嬉しい。
他にも雄町や山田錦を使ったものもある。

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こちらも定番シリーズである「クラシック 仙禽」。
こちらは火入れしてあり安定感ある味わいが特徴。
常温以上で楽しめる。
こちらも雄町、亀の尾、山田錦の3種ありすべて「ドメーヌさくら」。

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雄町&火入れという同条件で「而今」との呑み比べもしてみた。
比較することでバランス感覚に優れた「而今」に対し、より明確な主張を持つ「仙禽」の酒質がわかる。

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こちらも初見ではまず読めない「仙禽 一聲(いっせい)」。
ドメーヌ&テロワールを具現化、昨年初めて登場した商品である。
ドメーヌとは酒造りの工程を自分たちで一貫して行うことを言う。
多くの蔵は米は農家から買うが、米も自分たちで作ってしまおう!ってのがドメーヌという思想。
テロワールは田んぼで使用してるものと同じ水脈を使ってお酒を作ろうという土壌の個性を生かす思想。
精米歩合も麹米・掛米共に35%まで磨いたまさにプレミアムシリーズにふさわしい逸品。

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夏の時期には「かぶとむし」。個人的には一番好きな味わい。
この独特の味わいはどこか懐かしい少年時代を思い出させる。
子供の頃は酒なんか呑まなかったのに不思議な感覚(笑)。

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ワイン酵母を使用した「ドルチェ」シリーズの一つである「Dolce-Aroma(ドルチェ・アロマ)」。
残念ながらこのシリーズは終わってしまうらしい。
この後説明する「ナチュール」シリーズを継続させるためあまり多くの酵母を扱うのはリスクが伴う、という理由からとか。
これこそ「仙禽」の“熱量”を感じられる商品だっただけに残念である。
ただしそこまでして成し遂げたかった新たな“思想”があったとあれば理解できる。

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昨年からの新シリーズ「ナチュール」。
ネーミングからわかるように超自然派をコンセプトにした今後の「仙禽」の新たな軸になるかもしれないシリーズである。
酵母無添加の蔵付き酵母、木桶を使い生酛で醸す。使用する米は古代米・亀の尾。
現代の醸造に関する知識やデータを元に昔ながらの製法で酒を作ったらどうだろう?という考え方だろうか。
全部で8本の木桶で醸造、うち6本がナチュールシリーズとなった。
(残り2本は赤とんぼと「焼鳥×和酒 遊」のPB酒「Amuser(アミューゼ)」に)

Un(アン)から始まり、Six(シス)で完結。
最初の Un(アン)は購入できなかった。
due(ドゥ)は「はせがわ酒店」でいただいたが低精米(90%)とは思えないクリア感は凄いと感じた。

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trois(トロワ)からようやく購入することができた。
ここからクレヨン画アーティストharumi niwanoによるものに変更。
彼女はまずそれぞれのお酒を呑んでその浮かんだイメージを作品にしているのだそうな。

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最初の3つは生酒。quatre(キャトル)からは火入れになる。
直線で構成された重なる碧い線は輪郭がクリアな酒質を表現しているのだろうか。
後日全て飲み比べられる機会があったがtrois(トロワ)とquatre(キャトル)が最も好みの味わいであった。

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cinq(サンク)はなぜか写真紛失。最後のSix(シス)はかなり乳酸を感じられる味わい。
温めた方が好みの味わいだった。ジャケットのように日だまりのようなほっこりとした感じ。

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赤とんぼはナチュールのプロトタイプと共に味わうことができた。
なぜ昨年版のが雄町なのかは不明。これ聞き忘れた。今度仙禽庵の人に聞いてみよう(笑)。
個人的には2015年版「生酛 亀の尾」が圧倒的に良かった。
ナチュールシリーズのどれよりも(笑)。

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そして一巡して今年版の「雪だるま」と搾り違い3シリーズ。
ちょうどタイミングよく「かぶとむし」入荷のお知らせもやってきた。

f:id:odayasu:20170115172216j:plain全て呑む機会がなかったナチュールシリーズ、運よく先日6シリーズ全てを呑み比べられる機会があった。
しかも「焼鳥×和酒 遊」の田上夫妻を迎えてというスペシャルな会に。
(つづく)

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